二者択一 4
 
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「…どうすっかな、これ」
俺は今、一枚の百円玉を見て、理性と相談している。
周りの電飾に照らされて、銀色に輝くこの一枚。
元々はジュースを買う為に残していた物だ。
 
しかし…少女にあげた他の百円玉は全部無駄に終わってしまった。
何と言うか、あの子は普通より遥かに下手だ。
あんなにクレーンゲームが苦手な子供を、俺は見た事が無い。
全然無関係な所に動かしてるんだもんな…。
あのクレーンは回転できるし、それを有効活用すれば簡単に取れると思うんだが。
はたから見るより、すごい難しいとか?
…見てるだけじゃ、分かるわけないけどさ。
 
百円玉をズボンのポケットに押し込み、外の自販機がある所を近くの窓から覗いてみる。
日陰に置いてある青いベンチに、少女から攻撃を受けた男が、自販機の前に立っている。
…頭は大丈夫そうだ。
小銭を何枚か入れて、自販機のボタンを二回押した。
数秒間を空けて、ガタンという飲み物が落ちる音。
身を屈めて男は出てきた飲み物を取り出す。ペットボトルの水と…あれはコーラかな。
コーラか…どうせ少女の分だろうな……
「はあ〜…」
炭酸って、この暑さには最適だよな。
やっぱり、先に飲み物を買うべきだったな。そして残ったお金で少女がほしいぬいぐるみを俺が…
「っ!?」
突然、頬を冷たさが襲う。
すぐにその冷たい物から離し、それに視線を向ける。
おなじみの赤い缶。
それは俺がいま一番欲しがっていた物。
…と、さっき自販機にいたはずの彼が、そのコーラをこちらに差し出している。
瞬時に俺は、少女にお金をあげた事のお返しと勝手に解釈し、ありがたく頂いた。
 
 
待ちに待った水分補給。
刺激感が混じった甘い液体が喉を通る。
…少し、生温いかな。仕方ないか。この際氷とか贅沢な事は言ってられない。
「……」
自販機の横の日陰のベンチで、二人は無言で飲み進める。
「……」
気まずい…。
…どうしたらいいんだろう。こんな時は。
とりあえず、前の道路とか見てよう…
…待てよ。
忘れてた。
俺を誘っておいて、どこに行ったんだあいつら。両替するって言って…ずっと戻って来てない。
ここは入口近くだし、少女達と会った所も分かりやすい場所のはず。探せばすぐ見つかるだろ。
なのにどうしてこんなに待ちぼうけを?
……
…!
…今、何で寒気が?
 
そういえば、俺ら以外人気が無いような…?
さっきまであんなに騒がしかったのに…
「店員はどこかしら?」
出入り口から、聞いた事のある声がした。
思わず振り返ってしまう俺。
無地の着物をパーティードレスに改造したような服。
俺の腕を落とした張本人。
「落ちた小銭取って欲しいのだけれど…、…!」
眼が合った…
…あいつだ。
「どこかで見た顔ですわね」
女は冷ややかな視線でこちらを見る。
長い金髪になだらかなウェーブ。よく見るととても綺麗だ。
なのだが…
「まあ、そんな事はどうでもいいわ。店員さんは知らない?」
この女の声を聴くたび、左腕の痛みが増す。気のせいだと信じたい。
…どうでもいいとか言ったか?
いいや。考えてる暇はない。ここは逃げた方が良い。
とはいえ、この人を置いてくわけにはいかないか。
なるべく体勢を変えないように、隣を見てみる。
 
下を向いたまま、微動だにしない。
 
それじゃあ何も解決しないような気が…。
 
「あら、メリルではありませんか!」
 
別の見知った声が聞こえたと思ったら、そこには一枚の百円玉を片手に、少女が手を振っていた。
 
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