世界一レトロで残虐な成り代わり 3
 
―――――――――――――――――――――――――――
 
5月9日、午後8時。美玖の家でテレビがつけられた。
映しだされたのはとあるドキュメンタリー番組だった。

 「今回の特番は『呪われた子』無藤静可容疑者についてです」
 「さっそくですが、今回の被害者は?」
 「えー、立花優希くん。16歳。手口は今まで起こった事件とほぼ同様です」
 「ってことは…顔面が剥されているんですね」
 「はい、頭部に関しては変わりありません。しかし腹部が…正しくは大腸・小腸など計5つの内臓が周囲にばら撒かれてい ました。ほぼと言ったのはそのためです」
 「ちなみに、一番目の被害者は当時5歳の上野里美さん。この事件が起き始めた頃は、まだ顔の皮膚を剥すだけだった  と」
 「そうなりますね。まあ、胸に刺し傷がありましたけど、それは被害者が暴れるのを防ぐため、もしくは被害者の苦痛を少し でも減らすためだと認識しています」
 「最初の頃は犯人にも思いやりか何かがあったようですね」
 「ええ。しかし最近は死体が弄られているんです。…いえいえ、そんなものではありません。内臓の各所がズタズタです。 おそらくは死んだあとに…やったんでしょうが。いつマッドサイエンティストやサディスティックな犯行になるか…」
 「そうですね、犯人の動向が気になるところです。それでは一旦CMです!」

画面は陽気なピザ屋のCMに切り替わる。そこで美玖はふう、と溜息をついた。
いつもとは明らかに違うけだるい声で、独り言を呟く。
「あのとき、この番組観ないように釘を刺しておくべきでしたかね…」
声のトーンは異常なほど低い。少年の声でも通るほどだ。
天井を見上げ、また溜息をつく。最初のものより長い。
美玖は一人暮らしのため、これをきくものは誰もいない。独り言はいつしか、彼女の癖になっていた。
唯一美玖の落ち着ける、飾らないでいられる場所である。

ほどなくしてCMが終了し、特番が再開する。
ソファにもたれ掛かっていた体を瞬時に前のめりに戻す。
 「引き続き、解説の野村さんに…きゃっ、きゃあああああああああっ!!」
明るい口調で話していた女性司会者の顔が、恐怖に染まった。
何故なら、台詞を喋っている間に野村という人の首が取れたからだ。凶器は見当たらない。ワイヤーの類を使ったのだろうか。
しかし、美玖は驚かない。むしろ画面に釘付けになっている。
その後何秒もしないうちに、画面は『しばらくお待ちください』の文字のみになった。
「あーあ、解説の人、死んじゃいましたね」
独り言でもなお、敬語のまま。それも彼女の癖の一つなのかもしれない。
文字だけの画面に飽き、部屋のそこかしこを眺める。
退屈だったのか、すぐ下に置かれているお菓子が詰まった籠からポテトチップスの袋を取り出し、手で破いて食べ始める。
「今日はコンソメ味でしたか」
誰に言うわけでもなく、相変わらずのトーンで呟いた。
さっきより眠たそうなその瞳は、ただただ部屋の天井を映し出すのみ…。

次の日の5月10日。担任が神妙な面持ちで話を始めた。
悠美や茜、美玖はもうすでに想像はついていた。立花のことだろう。
結果は予測通り。担任は流石に死体の状態など、多くは語らなかった。だが昨日の特番で知った者もいるだろうが。
茜は両親の配慮でその特番は観なかった。担任の判断は正解だったと言える。
一時間目が終了すると、悠美と美玖は茜の席に集まった。
「茜ちゃん。昨日の特番、観ましたか」
昨日からずっと心配していたのだろう。やや戸惑いがちに問いかける。
「あ、いや…観てないよ。私の状態が酷かったからかいつもは観ないお笑い番組を」
彼女の答えに対してよかった、と言いながら息を吐いた。安堵の表情も浮かべている。
悠美も悟られないように、控えめに「なんとか大丈夫みたいね」と美玖に囁く。様子からして茜に聴かれてはいないようだ。
二人とも安心し、いつものように雑談を始めようとしたとき、教室の入り口にいる別のクラスの男子たちがある話題で話しているのが聞こえた。
どうやら、その男子のクラスには転校生が来たらしい。
三人は暫く固まった。彼…立花と入れ替わるようにやって来たその人物に、好奇心を持った。
「…いってみる?」
悠美が二人に尋ねる。二人とも力強く頷いた。
そして三人は、教室を出た…
――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
小説TOPへ    HOMEに戻る