隠し幽室 1
少女は目を覚ました。
真っ白な部屋で。
少女は真っ白なソファに座っていた。
少女の座っているソファには、少し距離を置いて少年が座っていた。
少年は前にある机に置いてある本を読んでいた。
少女は周りを見回し、手当たり次第にソファの上や床で何かを探した。
ここにはないと分かると、少女は立ち上がった。
少年は何も反応を返さない。
「あ゙ぁあぁ゙ああぁぁあ゙ぁあ゙ぁぁっ!!!!」
少女は声にならない声を上げ、頭を掻きむしった。
それでも少年は本を読むままだった。
「どこよ!!どこにやったのよ!!!」
少女は錯乱していた。
机を引っ掻き、床を蹴り、獣のように喚き散らす。
数分その状態が続いた。
その間少年は、本に冷ややかな視線を送るのみだった。
程無くして、少女はやや息切れしながら少年を睨んだ。
「お前が…」
その声には殺気が満ち溢れていた。
「お前が隠したんだ!!」
少女は少年の胸ぐらを掴んだ。
少年は一切の抵抗をしなかった。
「どこに隠した!!?出せ!!早く出せ!!!」
何も答えない。動じていない。
少年は少女の両腕の包帯を見据えていた。
襟にますます力が入る。
ばさり、と本の落ちる音がした。
数秒後、少女の視界に光る何かが入った。
よく切れそうな刺身包丁だった。
少女がそれを確認すると、襟から手を離し、少年の手から包丁を奪い取った。
瞳孔は開き、口角が不自然に上がっていた。顔は下を向いたまま。
よろけそうな足取りで机に向きを変え、手のひらを上に向けて腕を机にのせた。
そして包丁を逆手に持った左手をゆっくり上に上げ、
手首の真ん中に勢い良く刺した。
細い手首に出来た裂け目から、どくどくと血が流れ出る。
包帯も赤く染まっていく。
半開きだった少女の眼が全開になり、何を言うわけでもなく、じっと見ていた。
少年も無言で立ち尽くしていた。
やがて少女は、スイッチが入ったようにけらけら笑い出した。
それと同時に、動きを止めていた左手を再び右手の上にかざし、今度は肘に近い方に突き刺した。
その二回に留まらず、一回目のように狙わず、無差別に傷つけ始めた。
同じように笑い声も禍々しいものに変わっていった。
少年は動かなかった。
少女の腕には血溜まりが出来るほどに深く、沢山の傷が出来た。
一変して無表情となった少女の顔には、血と肉片が飛び散っていた。
自分の腕を見た少女は、構えていた左腕の力を抜いた。
手から落ちた包丁は、左腕の真下に落ちた。
魂が抜けたように、少女は血溜まりに崩れ落ちた。
少女は真っ赤な腕を見つめていた。
少年が机に転がった包丁を手に取り、少女の背中目掛けて刺そうとしている事は、少女は知る由も無かった。
血溜まりがひときわ大きくなった。
とても静かになった。
物音一つしない。
あるとしても、本のページをめくる音ぐらい。
そんな静寂の、真っ白い部屋の中、ドアが開く音がした。
次の少女が、担ぎ込まれてきた。
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