隠し幽室
…―幽室。
何故かは分からない、がふと思い浮かべた。
しかし、聞き慣れない言葉だ。
近くにあった辞書を手に取り、や行を開け、ぱらぱらとめくる。
ゆうし、ゆうしお…と続いて、ゆうしてっせんで視線が止まる。
載っていない。
テレビを見て大笑いしている両親を一瞥して、勉強机の上にあるパソコンの電源を入れる。
”幽室”で検索にかけるつもりが、どうしても”幽しつ”としか入力出来ない。
苛々がつのる。
仕方なく、”幽霊”と入力して”霊”を消し、”室”を入れてEnterを押した。
ページが移動する。
この時間は精々二・三秒なのだろう。だが私にはこのわずかな時間すら耐えられない。
ヒットしたのは辞書サービスだった。
それによると『奥深くもの静かな部屋』、『牢獄』の二通り意味があるらしい。
…牢獄。
私が住んでいる家は山奥にあるし、前者の意味でも使えるかもしれない。字の雰囲気としても、夜は何か出そうなくらい不気味だ。
しかしここは、私にとっては牢獄以外の何者でもない。
自分の子供は束縛し、自身は好き勝手生きる愚か者。
我が家の中のもう一つの幽室。
その中に閉じ込めた”誰か”は、じきにはい出て来て、この日常を滅茶苦茶に壊してくれる。
少なくとも、今夜中には必ず。