HOMENovel>小説本編:短編集-壊れてしまったラジオ


壊れてしまったラジオ



『日付が変わりまして8月5日となりました。ここからはこの夏話題のJ-POPをお送りします―』



『♪〜……』




聞いてみると、随分昔の音楽とは違うなあ。
なんだか盛り過ぎて五月蝿い。クラシックの方がよっぽど楽器を生かせている。
それとも、楽器など二の次で声や歌詞を重視しているのだろうか。
しかしどうにも、媚びているような声に思えてならない。こればっかりは曲によるかもしれないが。


ぼーっとそんな事を考えながら、カタカタとパソコンのキーボードを打つ。
しっとりとしたラブストーリーを執筆中だ。

普段陰気なストーリーしか書かないので、どう書けば良いのか苦悩している。
否、もう書ける気がしない。
つくづく奴も無茶を言うものだ。


それにしても、暑い。











『「ラジオ体操なめるな!」でした。運動は大切ですよね。続いてはP.N.くまえんさんの「僕なんか死ねばよかった」です』


『「突然漫画のような出来事に巻き込まれました。羨ましいかもしれませんが」…、いや駄目ですよこんなの…、…』

『失礼しました。次のみんなの愚痴コーナーはこれにて終わります』

『次回よりこのコーナーの時間は「評論家の皆さんに聞く、一番楽な自殺方法とは?」特集です。これで多すぎる日本国民が減れば良いですね。お楽しみにー』



『午前四時半となりました。番組切り替わりまして、ここからはニュースをお伝えいたします。…』





そうか。

こんなラジオばかり聞いているから思いつかないのだ。
だからといってテレビをつける気にもならない。
曲を流すにもiTunesの操作をしなければならない。


違う。自分のせいだ。

責任転嫁しようとするな。

集中力が足りないんだ。

四時間以上もあって一行も書けないなど。


有り得ない。














『お昼になりました。外はすっかり真夏ですね…、リスナーの皆さん熱中症になってくたばりやがれっ!』


『海ではしゃいでる幸せ者はまとめて鮫に食われてしまえばいいですよね。同意の方はどうぞお葉書をお送りくださいませ…。そろそろ交代ですのでこの辺でー!』



『はい交代いたしましたマスターです。この時間はバーボンハウスと思ってゆったりお休み下さればと思います…』



バーボンハウスか。懐かしい。
あの頃は一人だったけど充実していた気がする。

当時の自分に見せてやりたい。言ってやりたい。
夢が叶った今はこのざまだと。大人しく普通の仕事に就けと。


この瞬間も着実に締め切りまで近づいているのを、時計の針が進む音が教えてくれる。

教えて欲しくなかった。

いっそ壊してしまおうか。
そうしれば時は止まるのだろうか。


もどかしい…。


どうすればこの物語を紡ぎ出せる?
彼らは幸せになれる?


分からない。

恋愛など無縁だった人生。
人間同士が好きになる事すら。


理解不能!理解不能!




『…ところで、仕事や趣味が上手くいかない貴方に朗報です』















「先生。なんでラジオが禁止されてるんですか?」


「そうだよ。曲流したりとかしてるんでしょ。なんでなんで?」



「え?ああうん、まあそうなんだけどね。先生達が子供の頃とは違うというか…」



「「?」」



「数年前から変な電波を使い始めたせいか、話したり流す方も聞く方も壊れちゃったって」

「だからラジオを見たら破壊して、ラジオに関わる人がいたら救急車を呼ぶ事になってるの」


「へー」


「まあ詳しい事はまだ知らなくていいわ。ほら早く教室に入りなさい」


「「はーい」」




「生徒は全員教室にいますか」

「ええ。廊下を見て回りました」

「では職員室から斧を持ってきて下さい」

「いえ、私はもうバールがあるので大丈夫です」














『四時になりました。ニュースをお伝えします』


『四十代男性がパソコンや時計などを道路に投げ、隠し持っていた包丁で通行人数名を刺して重傷を負わせる事件が発生しました。いい気味ですね』

『どうでもいいですが、男性が投げたと思われるパソコンには架空の男女が出会うまでと謎の文字列がメモ帳に書かれており―』

















「また通り魔?テレビでやってたけど」


「怖いよね。最近は珍しいことじゃないし…むしろ日常茶飯事じゃない?」


「もう毎日あるような気がするー。外国にでも行きたいな」


「ああ向こうはもう皆自殺してるよ。知らない?アメリカなんか皆銃片手にさあ」


「もう死ぬしかないの?本当どうすんの」



「そこのお嬢さん方、どうぞご心配なく。どこぞの国が核爆弾を落とすとか」





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