Resident in alternate world 2

さっきの少年の言う通り、私は奥の部屋にいる事にした。
安全だという保証はないけれど、外にいるよりは良いかと思った。

奥の方が暗いので、慎重に石の階段を下りていく。
横の壁に手を添えて、一歩ずつ。音をたてないように。
泥棒にでもなったような気分だった。


「そんな臆病になんなくても良いよ」

奥から女の声がした。

「ここには怖い奴はいやしないよ。さっさと下りてきな」

高圧的な声だった。
声の主に従い、そそくさと階段を下りる。

「…なんだ。また前世代の人間か」
私の身なりを見て吐き捨てるように言った。
そういう彼女は髪を胸まで垂らし、服に至っては私の知らない不思議な素材だった。
前世代の人間…引っかかる言葉だ。
「何じろじろ見てるのよ」
不機嫌そうに、眉間に皺をよせて言う。

正直苦手なタイプの人だが、この人は何か知ってるかもしれない。

「あの…」
「何」
「…ここはどこなんですか?」

「……」
「…えっと…あの」
「…ハァー、まったくあいつも人任せにしやがって!」

「今度帰ってきたらビンタぐらいじゃ済まないからね…ったく」


言いながら女は、階段側から見て右の通路の方へ行こうとする。

「…あの」
「うっさい!」
「! すみませんっ!」

怒られたような気がして思わず謝る。
やっぱり気が強い女の人は苦手だ…。

「…いいや。とりあえずあんたはそっちの空き部屋にでも入ってな。何かあったら大声出しゃいい」

女は私の後ろを指さす。
振り返ると、寂れた扉が見える。
あの男の子はここの事を言ってたのか。

「外には奴らがウヨウヨいるからね。しばらくは匿っててあげるよ。ただし」


「炊事洗濯…その他家事全般手伝ってもらう。何もしない居候を住ませておくほど、ここに余裕は無いんだ。じゃ」



……

何やらぼやきながら、女は通路を進んでいった。
彼女の話によると、「何か」は外にしかいないのだろうか。
どっと疲れた気がする(いろんな意味で)。部屋で休憩させてもらおう。





私は薄い鉄板で出来た扉を開け、部屋に入る。

中には簡素なベッドに小さな机と椅子、窓と地味なカーテン、そして隅にいくつか箱が雑多に置かれているだけだった。
ベッドも家にあるふかふかなものではない。

これから贅沢は出来ないんだ。

ベッドに腰掛け、家族と家の事をふと思いだす。
部活から帰ったらすでにお母さんが作った料理が並べられていて、それを当然のように頬張る。
料理が美味しいのもあるけど、それ以上に家族と居るのが楽しくて。

皆どうしているんだろう。
私がいなくなって、心配してくれているんだろうか。
そう何時間も経ってないだろうし、学校の居残りとでも思っているんだろうな。
これがホームシックって言うんだ…
………。

私は帰れるの?

今まで、まあそれほど長い時間でもないけど、どこかで私は帰れるって思ってた。
誰かが助けてくれるって。頭の隅っこでそう信じてた。
さっきはたまたまあの子に助けられたけど、それは当たり前じゃない。
運が良かっただけだ。

そんな考えに至ると、急に恐ろしくなる。
ここが、この世界がどんな場所なのかも分からない。何をどうしてこうなったのかも分かってない。
帰れる保証はない。
ひょっとしたら、私は別の世界になんて来てなくて、ただ道に迷っただけなんじゃ?

…ああ、それだったらどんなに良い事か。
でも違うんだ。こんなのただの現実逃避だ。
もっと現実を、今を理解しなきゃ…
理解するって何を?
嫌だ。考えていたくない。
そうだ、外の景色を見よう。少しは気分転換になるかもしれない―…


「え」

黒い物体が目の前にいる。

どうして「何か」がそこにいるの?
だって、いるものは仕方ないよ。
じゃあ私は一体全体…




「嫌ぁぁあああああぁぁああぁああっ!!!」





「聞きなさい!!」


ぱちん。
部屋が明るくなる。

「電気もつけずに何物思いにふけってるの。それも変な方向に」

さっきの女の人だった。
缶ジュースらしきものを開けて私に差し出す。

「ほら」

「…これは」

「これくらいあんたの時代にもあったろ。自動販売機って言うんだっけ、あそこから」

「……」
気付いたら涙が出てた。
ずっと流してたのかもしれない。よく覚えてない。

「人の親切はありがたく貰っとくもんだよ」
そう言って私の手に缶ジュースを握らせる。
「無理にでも飲んでおくこと。元気になってくれないとこっちも迷惑なの」

この人なりの親切なんだろうなと思った。
涙を拭い、ジュースに口をつける。
甘くて炭酸の刺激がある。

いつもより美味しく感じた。

「さっきは暗がりで分かんなかったけど、所々小さい傷を負ってるね。他のに手当てさせるよ。私は忙しいんだ」


彼女は部屋から出ていった。

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