茶番 1
 
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おかーさん。何で?
なんで私をこんなにぶつの?
 
おとーさん。何で?
なんで私をこんなに殴るの?
 
私なんてただのゴミクズなんだから。私に何をしたって無駄なんだよ。
こんなに謝っても、土下座しても、許してくれないの?
私には、これくらいしか出来ないの。
 
腕が痛いよ。足が痛いよ。
胸が苦しいよ。息が出来ないよ。
お願いですから、許して。
私の存在が不快なら、いっそ死んでもいいですから。
せめて、この苦しさを、取り除いてください…
 
「おまえはいてもいなくても同じなんだよ」
 
そうです。私なんて誰にも影響を与えない、無意味な存在です。
 
「いや、おまえは居たらいけない子なんだ。俺達に害を与えてる」
 
そうなんです。私は生きててはいけない、害虫なんですよ。
 
私みたいなゴミは精々ゴミ捨て場に捨てられて。
ゴミ収集車にかけられて。
ぐちゃぐちゃになって。
燃やされて。
何処かに放置されてそのまま消えるのがお似合いなんです。
 
蹴られ、殴られ、甚振られて。
誰にも存在を感知されずにのたれ死ぬのです。
 
 
……
 
………
…これは何だろう
線を引く道具?
いいのかな。
使っても、いいの?
おかーさんは寝てるし、おとーさんはお出かけ。
おかーさんが起きたら殴られるかな。
いつものことだし…
…カチ。
やっぱり、ここを押すんだ。
何か尖ったやつが出てきた。
どうするのかな?
確か電話の所に紙があった。
やってみよう。
静かに歩けばばれないよね。
あれ。
 
急に眠くなって…
駄目だよ、こんなところで寝たら
おかーさんに…
 
むく…
とん、とんとん
かさかさ、、
びりびりり…
かり、、
 
……
あれ。
私、こんな所で寝てたっけ。
珍しくぶたれてない。
そっか。まだ夜。
ほんのちょっとの居眠りだったんだ。
だってこんなに暗いもの。
えっと。それならまだおかーさんは起きないね。
そういえば、私、ペンでなにかしようとしてたんじゃなかったっけ。
で、紙を取ろうとして…あれ?
何であんな所に紙が落ちてるの?
何か書いてある…
 
『はじめまして』
 
…? 
 ひょっとして、私宛?
どうしよう。
返事返した方が良いのかな。
そもそも誰が書いたの?
でも…一応……
 
 
              *
 
「双葉さん、…で、良いんだよね?このまえの文化祭の会計報告が出来たんですけど…」
「え、あ、ありがとう…」
「双葉副会長、別にタメ口でも良いんですよ?強制はしないけど、ほら、皆と仲良くしましょう!」
「いや、良いんですよ。私なんて仲良くしなくても…。!? あ、今のは聞かなかった事にして下さい」
「?…ええ、分かりました…では失礼します」
ぴしゃっ。
「…うーん…」
また昔の自虐の癖が…
ここでは私を苛める奴なんていないのに。
この癖は早く治そう。
今のやり取りで分かったかも知れないが、私は生徒会で副会長の職についている。
両親の虐待に耐え続け、十年。誰かが児童相談所に電話し、保護され…この高校で『普通』になれた。
もっとも、今はまだ『普通』でない所が二つある。
 
一つはさっきの自虐の癖。
両親から暴力を受ける時、これで少しでも受ける攻撃を減らそうとする。
そして、もう一つは…
@¥;:¥・scjkじぇrmghj・。、fm…
あ…
szcdfvbんmはstryhjk、。jkんbdhrtだ。、sxcghjkl;…
ま、またアイツか…
GぁんうぇMんdc、scヶうぃあscf、おdzxcv;絵Rちゅいんm、。…
今大切な所なのに…
 
 
――― ――― ―――
 
あ、入れ替わった?
それじゃ、ここからは僕が説明します。
えーと…
…何から説明しようか。
ああそうだ、確かもう一つの『普通』じゃない所?
まったく、彼女も分からない奴だな。人間には何かしら『普通』じゃない所があるはずなのに。
まあいいか。これは他の人間と比べれば確かに『普通』とはほど遠いもんね。
要するに、多重人格って事。
ほら、人間は桁外れのストレスを受けると、その体験から逃れようとして、別の人格を造り上げるって言うだろ。え、言わない?
でもテレビとかで聞いた事はあるでしょ。知らないってんならそのパソコンで調べて御覧。百科事典のサイトに載ってるだろうから。
じゃ、話に戻ろう。主人格は彼女だけど、この身体は僕も使ってる。どちらかと言うと呼び出されたようなものだ。お陰で高校生ライフを満喫してはいるけどさ。
 
…ここから先は僕の愚痴だから、適当に聞き流して構わないよ。
実の所、彼女が暴力を受ける時は決まって僕に交代してたんだよね。これがはた迷惑ったらありゃしない。
こっちの方が気が狂いそうだったよ。何せあの二人、問答無用に殴ってくるもんでさ。
そこで、あんまり呼び出すなって言いたくて、あの電話帳を使わせて貰ったんだ。
『普通』では考えられないコミュニケーションの取り方…っていうか、目に見えない誰かの書置きがあっても、『普通』は返信しないでしょ?
でも彼女の世間知らずぶりが幸いして、何とか通報までこぎつけた。
通報ってのは…さっき彼女が言ってたでしょ。児童相談所に電話したのは僕なんだ。
彼女はそれを知らないみたいだから、「誰か」って認識してるんだけど。
 
…大分時間を食っちゃったみたいだね。それじゃ交代しますか。
 
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ffgふ、sdfghじぇrfghjklxcvbんm、。・245sdfvghんjkl;34…
 
ん、
xcdfvgbんうぇrtjkl;sdcvgbhsdrfghjkl;…
あ…意識が戻ってきた…
asedfghjk,l;sdfgbhnmj…
 
この後ってなんか眠いんだよね…
まだ学校なんだぞー、耐えろ自分ー…
……
…ふう。
生気が返ってきたかな。
で、どこまで話した?
そうだ、あれね…多重人k…え、もう聞いた?
おっかしいな…ひょっとして、あいつが抜け駆けした!?
もう…だから好きになれないんだよな。
 
そういえば。
私最近話しかけられる時まず「双葉さんですか?」って言われるんだ。
まーたあいつが何かやったんじゃ…
 
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